「美味しくない宿」を変えたのは、仕組みと人材育成だった。
関東の有名温泉地にある、全70名収容の小規模旅館。
老舗としての歴史や温泉の質には定評があるものの、施設の老朽化が進み、ハード面への投資が難しい状況に。
そのため“料理”こそが勝負と考えていたものの、クチコミでは「美味しくない宿」と評価され、売上も伸び悩んでいました。
【当初の課題】
- 料理の低評価(朝食3.92/夕食4.11)
実態は、料理の8〜9割が既製品。スープや煮物、デザートに至るまで市販品で構成されていました。 - 原価率の高さ(約23%)
後に発覚したのは、仕入れ担当者と業者の癒着。1〜2割高い仕入れ値が常態化していたのです。 - 人材の属人化と不安定な雇用
調理長の一存で現場が動き、「総上がり(集団退職)」も起こりかねない組織体制に。 - 客単価の伸び悩み(@11,000円)
周辺施設と比べて0.5〜0.6ポイント低いクチコミでは、価格アップは望めず、打つ手がない状態でした。

【実施した施策】
- プロシェフの定期訪問(毎月1泊2日)
全品手作りを目指し、月2〜3品ずつ段階的に改良。献立更新は年4回更新。 - レシピ管理と環境整備
冷蔵庫管理、調理台に見本掲示、献立の貼り出し、誰でも作れるレシピの見える化で効率化。 - ゼロからの教育体制
未経験者に包丁の持ち方から指導。ポジションの共有で属人化を防止。 - 地元食材×出汁の力
香り高い一番出汁・二番出汁を毎日取り、冷凍食材に頼らない「記憶に残る味」を実現。

【数字で見る成果】
- クチコミ改善:朝食3.92→4.63/夕食4.11→4.74
予約サイトでの評価が上昇。予約数も急増しました。 - 原価率23%→15%台へ
素材を活かす技術で“安くて美味しい”を両立。 - 客単価11,000円→18,500円へ
「この料理なら、この値段でも泊まりたい」と思わせる価値を構築。
【現在の姿】
今や、調理未経験者3名で、朝夕それぞれ2ランクの会席を提供するまでに成長。
調理経験者はわずか1名(居酒屋経験のみ)ながら、地域トップクラスの料理評価4.8点を継続中。
「人がいない時代」において、1年以内の離職ゼロという快挙も達成し、
“美味しい料理が売りの宿”として、堂々と地域に名を連ねる存在となっています。
