“担当制”に頼らない厨房づくり

担当制の限界──誰かが抜けると料理が止まる

日本料理では「板場」「煮方」「焼き」「揚げ」といった担当制があり、
洋食では「魚」「肉」「パティシエ」など、食材や工程ごとに分業が行われています。

担当名読み方役割・主な仕事内容必要な技術・特徴
花板(はないた)/ 板長いたちょう厨房の最高責任者。献立作成、仕入れ、人材育成、最終的な味の決定を行う。総合的な判断力、経営感覚、卓越した技術と経験。
向板(むこういた)むこういた刺身(お造り)や切り物を担当。板長に次ぐ地位で、調理場全体を監督する。最高の包丁技術、魚の目利き、盛り付けの美意識。
煮方(にかた)にかた煮物、蒸し物など、出汁をベースにした味付け全般を担当。出汁の扱いの技術、繊細な味付け、火加減の調整能力。日本料理の核。
焼き場(やきば)やきば焼き物全般(魚、肉、野菜)を担当。炭火やグリルの火加減を操る。魚の水分や脂身のコントロール、素材の旨味を最大限に引き出す火入れ技術。
揚場(あげば)あげば揚げ物全般(天ぷら、唐揚げなど)を担当。油の温度管理、衣のつけ方、揚げ具合を見極める経験。
碗方(わんかた)わんかた吸い物、味噌汁など汁物全般を担当。(煮方が兼任することもある)出汁の風味を活かす最終調整、吸い口(香りの添え物)の技術。
追い回しおい回し最も下っ端の雑用係。皿洗い、食材の仕込みの手伝い、掃除など。基礎的な下準備を学びながら、他の担当の指示で動く。
担当名(仏語)役割・主な仕事内容必要な技術・特徴
シェフ・ド・キュイジーヌ (Chef de Cuisine)総料理長。料理の責任者であり、経営との連携、メニュー開発を行う。創造性、コスト管理能力、チーム統率力。
スー・シェフ (Sous-Chef)副料理長。シェフの右腕として、現場の監督やシェフ不在時の代行を行う。現場管理能力、全てのセクションの知識。
ソーシエ (Saucier)ソース、煮込み料理、肉料理の調理を担当。最も重要なポジションとされることが多い。緻密なソース技術、風味の調整、肉とソースの完璧な組み合わせ。
ポワソニエ (Poissonier)魚料理全般を担当。魚の仕立て、加熱調理、魚介類用のソースも担当する。魚の目利き、繊細な火入れ、素早い調理スピード。
ロティスール (Rôtisseur)肉のロースト、グリル、揚げ物を担当。大きな塊肉の火入れ、焼き色(メイラード反応)の技術。
ガルド・マンジェ (Gard-Manger)冷製料理全般(前菜、サラダ、パテ、テリーヌなど)を担当。冷たい料理の温度管理、盛り付けの美しさ、衛生管理。
パティシエ (Pâtissier)デザート、焼き菓子、パン、冷たいデザート全般を担当。製菓の専門技術、正確な計量、デザートの構成力。

それぞれが専門性を高める仕組みではありますが、
担当が退職した瞬間に、その料理が作れなくなるというリスクも抱えています。
新しい人材が入るまでその穴は埋まらず、
結果的に「料理の質が不安定になる」「残ったスタッフに負担が集中する」など、
経営を圧迫する事態に繋がります。


調理の“属人化”をなくすという発想

こうした不安定さをなくすために、
シェフブリッジでは「調理の専門性をなくす」=“担当制の固定化を壊す”という考え方を一部の宿では導入しています。

つまり、担当を固定せず、一定の技術レベルに達した段階ですべての部署をローテーションし、
それぞれのポジションを経験させる仕組みです。

  • 焼き場のスタッフが煮方を経験する
  • 盛り付け担当が揚げ物を覚える
  • 洋食シェフが和食の味付けを体験する

これにより、どのスタッフも「全体を理解した調理人」として成長でき、
誰かが抜けても厨房が止まらない安定体制を築くことができます。


“現場発想”ではなく“経営発想”で厨房を設計する

伝統的な調理場の感覚では、「担当外の料理をやらせるなんてありえない」という声が出るかもしれません。
しかし、シェフブリッジは経営者の視点から厨房を再設計します。

私たちの目的は、
「お客様に安定的においしい料理を提供すること」
「スタッフの離職によって経営を揺るがさないこと」
その両方を同時に実現することです。

そのために、
専門性を一度“ほどき”、誰でも再現できる調理体系に組み直す
これが、シェフブリッジが現場で実践している“逆転の厨房設計”です。


属人化しない厨房が、経営を強くする

担当者に依存しない厨房は、結果的に経営の安定につながります。

  • 退職や欠員が出ても料理品質が落ちない
  • 教育にかかる時間が短縮される
  • チームで支え合うことで離職率も下がる

つまり、“調理の専門性をなくす”ことは、
経営の持続性を高めるための戦略なのです。


まとめ

調理の専門性をなくす──
それは、技術を軽視するという意味ではありません。
むしろ、技術を全員で共有できる形にすることが、これからの厨房のあり方です。

「誰かがいなくても回る厨房」
「誰が作っても同じ味になる仕組み」

そんな未来型の調理現場を、シェフブリッジは現実にしています。

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